優しいおみくじ | ハザマランド

優しいおみくじ

 三寒四温の切れ目のような日。夕方の雨が降る前に散歩へ出掛けた。歩きながらスマホで検索をかける。三寒四温の寒い日は天気が良く、暖かい日は曇るらしい。
 空を仰いだ。千本鳥居の間から仄暗い空が覗いている。朱(あか)、白、赤、白、橙(だいだい)、黒、紅(あか)、灰色。新古混じった千本鳥居も空もまだらで、温まってきた体に稲荷山の冷たい空気が入ってくる。
 心地よく、少し怖い。
 連なる鳥居と長い石段、おびただしいお塚と狛狐が相まって、異界の入り口を思わせる。
 畏まる。
 山を登るほど人気は減って、とある社に着いた。社の名を伏せるのはおみくじが優しかったから。
 六角形の振出箱は、つらつらと筆字で書かれた掲示板の手前にあった。三十二のご神託。参拝を済ませて箱を振る。小さな丸穴から二十八番の棒が出た。掲示板から探すと大吉だった。
 諸人の為に尽力したならば善い兆しあり。
 そう告げられて、多くの人が出すであろうご神託を眺めた。
「へぇ。優しいな」
 ご神託は一工夫されていた。大大吉から凶まであるが、下の方が混ざっている。凶後吉や吉凶相央(きちきょうあいなかばす)。良い兆しは良いままに。悪い兆しは良き前兆に。
 諸人に引いて欲しいなと思った。ただ、優しいおみくじを出す社には優しくありたい。この乱文を読み解き、稲荷山を四十分登り、おみくじを見つける人は、社に迷惑をかけない人であって欲しい。そんな貴方にもう一言。
 その社のおみくじはお財布にも優しい(無料)です。