テーブル席を余裕を持って配置した広い店内だった。
店主の本好きがわかるcafe APIED(アピエ)。
ゆっくりと歩き出すように頁を捲れば、席はもう己の世界で囲われて、どこまでも進んでいけるだろう。
隅の机に並べられた色とりどりの文芸誌は虹の架け橋か。
春と秋。週末、祝日のみの開店が悩ましい。
紅茶とケーキを堪能して、新緑に塗られた庭へ足を進めた。
つくばいに落ちる滴が水面を丸く揺らしている。
静まっていた。
つくばいは大原の清流を湛えて、清流は芽吹く緑を湛えている。
寂びていた。
まどろみに似た息遣いで涼気を吸い込む。
店内へ戻ると、小説好きのパティシエが笑って迎えてくれた。